自動車運転免許の更新のために、府中運転免許試験場に来ていた。
更新料の支払い・視力検査・写真撮影などの手続きを経て、講習を受ける教室に着席した。
教室のホワイトボードには「50(昨対比 -4)」と書いてある。
講習の講師と思しき女性が、ホワイトボードの前に立ち、講習の流れや教材について説明を始める。
そして、ホワイトボードに書かれた数字についても説明を始めた。
「この数字は、2021年の東京都における交通事故で亡くなられた方の人数です」
そうなのか、1ヶ月に約10人の方が亡くなっているのか、悲しいな...
などと考えていると、講師の女性は話を続けた*1。
私はいつもこの数字をホワイトボードに書いて講習をしています。
1ヶ月ほど前でしょうか。いつものように講習を終えると、ある女性が私の元に質問に来てくださいました。
「このホワイトボードの数字は、事実ですか?」
私は「はい」とお答えしました。
するとその女性はこうおっしゃいました。
「私の夫は昨年交通事故に遭い、約1年を経て、今年亡くなりました。夫は、この人数に含まれていますか...?」
私は「いいえ」とお答えしました。
ここに書かれてる数字は、事故発生から24時間以内に亡くなられた方の人数です。ですので、含まれておりません。
そうお伝えすると、その女性は
「この話を、ぜひ講習を受けに来たみなさまに伝えて欲しいです。」
とおっしゃいました。
私はこれまで、"交通事故で亡くなられた方の人数です" とお伝えすれば、"24時間以内に亡くなられた方の人数" であることが伝わると思っていました。
みなさんご存知のことだと考えていたのです。
でも、そうではないんだと気づきました。
ここに書いた「50人」よりも多くの方が、交通事故をきっかけに亡くなられている、ということをみなさんにぜひ知っていただきたいです。
....
教室が静まりかえっているのを感じた。
なんともいえない気持ちになった。
50人という数字を表面的にしか見ていなかったな、、と気分が落ちた。
この話をしてもらえて、とても良かった。
正直なところ、講師の方に対して「毎回同じような講習をやって、退屈だろうなぁ」などと考えていた自分がいて、とても恥ずかしくなった。
講師の方が日々の中でこのような気づきを得て、より良い講習にしてくださっているのだと分かり、尊敬した。
学び
講習を受けて、もちろん道路交通のルールについてたくさん学んだのだけれど、一番の学びは「その数字の前提を知っているか否かで数字の伝わり方が変わる」ということだった。
それはそう、という話なんだけれど、大事なのは聞き手にちゃんとその前提を伝えることであって、「聞き手側がその前提を受け取れるように工夫する」のは話し手側の責務だよなぁと思ったのだった。*2