tanakenの考えるCREとその行動指針

以前書いた CREとはなんなのかを考えている - tanaken’s blog の記事で、CREを次のように定義した。

顧客の不安をゼロに限りなく近づけるために、課題を把握・計測し、技術的なアプローチでその課題の解決に役立つものを実現していくこと

この定義では「顧客の不安をゼロに限りなく近づける」「課題を把握・計測」「技術的なアプローチ」「解決に役立つものを実現」などのキーフレーズで、CREとしてやるべきことのエッセンスを提示することができたと考えている。

一方で、この定義は抽象的であり、いまいち実態を掴みにくい。

この定義に基づいて考えると、CREの業務は多岐にわたる。それゆえに、具体的な業務内容について共通認識を作ることが難しいと感じている。

共通認識を生みやすい状態にする1つの手段として「CREの業務内容をなんらかの方法で分類する」というアプローチを採ってみる。

CREの多岐にわたる業務内容がいくつかのまとまりに分類されることで、話題のスコープが小さくなり、その結果として具体的なイメージがわきやすい(=共通認識を生みやすい)状態になることを期待する。

この記事では、①CREの業務内容の分類とそのプロセス、②その各分類における業務内容の具体例、③そのうえでtanakenのCREとしての行動指針、について述べる。

CREの業務内容の分類

分類の方針

CREの業務内容を分類するにあたって、CREの定義にもう一度立ち返ってみることにする。

CREの目的は「顧客の不安をゼロに限りなく近づける」ことである。

その目的に沿って考えると、CREの活動は「顧客の不安が発生し得るシーン」に対してアプローチをしている、と捉えることができそう。

顧客の不安は、サービスとの様々な接点において発生する(接点がなければ発生しない)と考えられるので、「サービスと顧客との接点」という観点でCREの業務内容を分類してみようと思う。

分類のプロセス

プロダクト

顧客との接点として、まず思いついたのは「プロダクト」だった。 顧客はPCやスマートフォン等の端末でプロダクトを利用している。

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プロダクト以外

おそらく多くのサービスにおいて、顧客との接点は「プロダクト」だけではないだろう。 顧客の獲得や関係性の構築をする「営業活動」や、顧客のお問い合わせを解決する「お問い合わせ対応」も顧客との接点である。 また、顧客は様々なメディアでサービスの「広告」を見聞きしているだろうし、「SNS」の公式アカウントの情報を見ている可能性もある。 そのほかにも接点はあるかもしれない。

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運営組織

そして、それらの接点を生み出す人間たちとその組織がある。 f:id:tanaken0515:20201031180810p:plain

運営組織自体が直接顧客と関わることは少ないかもしれないが、顧客が運営組織の実態(例えば金銭の管理や個人情報の取り扱い、システムの開発フローや障害発生時の対応フローなど)を知ることで「顧客の不安」が発生するケースはある*1

分類結果

以上のように「プロダクト」「営業活動」「お問い合わせ対応」「広告」「SNS」等の様々な顧客との接点とそれらを生み出す「運営組織」があり、それぞれについて 顧客の不安をゼロに限りなく近づけるために、課題を把握・計測し、技術的なアプローチでその課題の解決に役立つものを実現していくこと がCREである、と捉えることができる。

また、各接点での顧客とのコミュニケーションに不整合がある場合、顧客の不安に繋がる可能性があることから、各接点で一貫性のあるコミュニケーションを取るために「ブランディング・サービスデザイン」の観点で技術的なアプローチをしていくこともCREの役割であると考えるに至った。

最終的に図にすると次のようになる。

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各分類における業務内容の具体例

上に示した図の各分類における業務内容の具体例を思いつくまま書いてみる*2

  • 「プロダクト」
    • アクセスデータを分析してどの画面で利用が滞っているのかを把握する
    • 利用を促進するようにその画面のUIを変更する
  • 「営業活動」
    • 営業先の情報をスクリプトを組んで収集する
    • 営業先に伝えたい情報を営業担当者からヒアリングし、データを集計・可視化して提供する
  • 「お問い合わせ対応」
    • お問い合わせの情報を集計し、発生頻度の高いお問い合わせを把握する
    • お問い合わせの要因となっている処理のロジックを修正する
    • 社内向けの顧客管理画面を改修し、問い合わせ対応を省力化する
  • 「広告」
    • 広告経由での利用者について、その後のプロダクトの利用状況を計測する
    • 計測結果に基づいて広告運用担当者にフィードバックする
  • SNS
    • SNSの投稿に対する反応を分析し、SNS運用担当者にフィードバックする
  • 「運営組織」
    • お金の管理状況を可視化し、管理フローを定めて運用する
    • 顧客データの修正に対してルールを定めて運用する
  • ブランディング・サービスデザイン」
    • 各接点で利用する単語の表現と定義が揺れないようにテキストを自動検査する仕組みを作る

どうだろう。分類する前と比較して、具体的な業務内容をイメージできるようになっただろうか。

個人的には脳内が整理しやすくなって便利だな〜と感じている。

CREとしての行動指針

以上を踏まえて、CREとしての自身の行動指針を記載しておく。記載しておくことで、迷った時にここに立ち返って考えることができるようにする。

担当サービスのCREとして

自分はいまSUZURIというサービスを担当している。

SUZURIのCREとして、直近では「運営組織」「お問い合わせ対応」「プロダクト」「営業活動」の4つに注力していきたいと考えている。

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まずは「運営組織」について。
SUZURIはここ2,3年で急成長しているサービスであり、それに伴って組織の規模も拡大してきた。 組織の拡大に応じて、運用ルールや管理フローの整備が必要な状況にある。 売上規模の拡大によって社会へのインパクトが大きくなった分、サービスとしての責任も大きくなっている。 まさに運営組織の信頼性をあげる活動が必要だ。
直近の自分の動きは主にこれで、内部統制の運用ルールやフローを整備したり、お金周りのロジックを精査してより健全な状態を作ることをメインの業務として実施してきた。センシティブな案件が多く、開発規模が大きなものも控えており、決して楽ではない(正直かなりしんどい)が、引き続き着実に対応を進めていく。

次に「お問い合わせ対応」について。
SUZURIへのお問い合わせの件数には波がある*3。 問い合わせが混雑している時期では、かなり長い間ユーザをお待たせしてしまう状況となっている。この状況を解消するために、お問い合わせのタネとなる事象を減らす、その事象が発生してもユーザが自己解決できるように画面や機能を見直す、多数のお問い合わせが来ても省力で対応できるようにする(結果的にお待たせ時間を削減する)、等をやっていく。
また、SUZURIのお問い合わせ対応チームのメンバーも増員したため、お問い合わせ関連業務においてこれまで属人化していたものや暗黙知化していたものを構造化・自動化することにも取り組み、増員に強いチームづくりを支援していく。

続いて「プロダクト」について。
データを活用したプロダクトの改善サイクルを回すことができていない。また、取り組んだ方が良いとは思いつつ取り組めていないことがたくさん溜まっていて棚卸しや優先順位づけも後回しになっている。
今後はデータを活用してユーザの不安の発生箇所を捉えることや、ユーザとの信頼関係を築くという視点で取り組めていない案件の棚卸しと優先順位づけを実施して順次取り組んでいく。

最後に「営業活動」について。
SUZURIでは、すでにサービスを使ってくれているクリエイターさんと協力してイベントを開催したり、まだSUZURIを利用していないクリエイターさんにSUZURIを紹介したりといった営業活動がある。
この営業活動の中でクリエイターさんに与える不安が小さくなるよう、営業活動を支援するための情報の提供や機能開発に取り組んでいく。

以上の4つを注力ポイントとして、ユーザとの信頼関係を築きながらサービスの長期的な成長に貢献したいと考えている。 また、これらの活動を通じて、「実現したいこと」や「解決したい課題」に対してユーザと共に向き合っていく*4サービスでありたいと考えている。

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所属会社のCREとして

自分はいまGMOペパボ株式会社(以下、ペパボ)に所属している。ペパボにはいくつかの事業部があり、それぞれの事業部でサービスを展開している。

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ペパボでCREをやっていく上で事業部内に閉じて各サービスに特化した活動を実施していくことも重要だが、事業部を横断して協力して活動することも重要であると考えている。
その理由として、1つは共通している課題に対しては共通したソリューションを適用した方が省力で済むため。もう1つは、ペパボと顧客という見方をした場合に一貫性のあるコミュニケーションを取るために、事業部を横断した視点が必要であると考えられるためである。

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この観点で、事業部を横断したCREメンバーの情報共有会やソリューションの共通化に取り組んでいく。

CREに携わるひとりのエンジニアとして

CREの活動は、様々なサービス・様々な企業で実施されている。

前項でも述べたが、共通している課題については共通したソリューションを適用した方が省力で済む。 そのため、CREとしての経験・知見・ソリューションは、他の企業にも適用可能な形で発信していこうと考えている。

また、企業を超えたCREのコミュニティづくりにも取り組んでいく。このコミュニティによって企業を超えた情報交換が促進され、各社のCREとしての活動がより洗練化されたものになる状態を目指したい。

まとめ

この記事ではCREの多岐にわたる業務内容を「顧客との接点」の観点で分類し、その各分類について具体例を挙げたうえで、自身のCREとしての行動指針を述べた。

CREとして活動されている方やCREに興味を持っている方にとって役立つことが少しでもあれば嬉しいなぁと思う。

*1:tanakenの観測範囲での具体的な事例としては「セブンペイの事件を受けて運営組織への不安が高まり、セブンイレブンの利用を控えるようになった」という話を耳にする

*2:挙げたのはあくまで一例であり、また、なるべく一般化して書いたつもりなのでその分詳細が曖昧で意味が通っていないものもあるかもしないが、ご容赦願いたい。

*3:セールや有名クリエイターさんの利用開始の影響で突発的に注文件数が増え、それに伴なってお問い合わせの件数が増える、という傾向がある。

*4:GoogleがCREを提唱した記事の言葉を借りるなら「運命共同体」になっていく